エージーイー(AGEs)って何?

今回のお話しは少し専門的になりますが、できるだけ分かりやすくお話しします。体の糖化は糖とたんぱく質が結びついて糖化反応が始まり、糖化たんぱく質やアルデヒドと言う物質ができて、AGEsができると理解してください。実際に体内の糖化反応は複雑でAGEsができる経路が全て解明されているわけでなく研究途上です。いずれにせよ、体の中で起こる糖化反応を経てできた終末糖化産物がAGEsなのです。AGEsには通常、小文字の「s」を付けて表記されています(省略されている場合もあります)。AGEsにはカルボキシメチルリジン(CML)、ペントシジン(Pent)、カルボキシメチルアルギニン(CMA)、クロスリンなど数10種類以上の物質があります。そしてAGEsには独特の蛍光を発するもの(人の目には見えない光)、たんぱく質に架橋構造を作って硬くしてしまうものなどがあります。このためAGEsの「s」はいろいろな物質があるという意味で英語の複数形を示す意味で表記されます。AGEsが蛍光を発する特徴は抗糖化作用成分の探索に応用されています。架橋構造を作るAGEsはたんぱく質の弾力性などの物性を変えてしまうので、体内に蓄積するとダメージが大きいと言われています。AGEsの構造や体内での生成メカニズムに関する研究は世界中の大学、研究機関、企業などで進められているところです。


体の中で起こる糖化

前回、ホットケーキ、北京ダック、醤油など、美味しそうに見えて食欲をそそる風味のある食品には糖化が関係しているというお話しをしました。実は食品の糖化と同じ反応が私たちの体の中でも起こっています。人の血液中には血糖(ぶどう糖:グルコースとも呼ばれます)が含まれます。そして体にはたんぱく質が皮膚、筋肉、内臓など様々部分に存在し、常に体温(36〜37℃)で温められた状態です。このため時間と共に糖化反応が進みます。特に食後などの血糖値が高い状態が続くときは糖化が起きやすくなります。糖化反応は糖とたんぱく質から「糖化たんぱく質」と呼ばれる物質ができるところから始まります。糖尿病の診断に使われている血中のヘモグロビン・エイ・ワン・シー(HbA1c)も糖化たんぱく質の一種です。これらの糖化たんぱく質は体の糖化状態をモニタリングすることで大体1~2カ月前の血糖値の状態を推定しています。体の糖化反応は血糖以外でも進みます。体内で血糖値が高い状態が続くとアルデヒドと呼ばれる反応性の高い物質ができます。これらの物質は血糖と同様に終末糖化産物であるAGEsを作ります。最近の研究では血中のアルデヒドが食後に血糖値が高くなる短時間であってもできることがわかってきました。食品における糖化は食生活を豊かにする効果があります。しかし体の糖化は体にダメージを与え、老化や様々な疾患へと導く死神のような影響があるのです。


糖化はとっても身近な化学反応

糖化は「糖」と「たんぱく質」が結びついて起こります。と言われても、多くの方々はそのイメージをつかめないかも知れません。しかし糖化はとても身近なものなのです。美味しそうに、食欲をそそる風味のある食品にはクッキー、ホットケーキ、うなぎの蒲焼、北京ダックなどがあります。これらの食品はすべて糖化を利用した調理法で作られています。例えば、北京ダックは、アヒルの肉(たんぱく質)に、砂糖や水飴などを含むタレ(糖分)をつけて、じっくりと時間をかけて加熱調理したものです。前述の美味しそうに、食欲をそそる風味のある食品はどれもキツネ色に仕上げられています。同様に味噌、醤油なども茶色く、風味豊かな、旨みをもった食品です。味噌や醤油が作られる過程で加熱調理は行われませんが、何年も時間をかけてゆっくり色づいていきます。これらの食品は材料に糖とたんぱく質やアミノ酸が豊富に含まれており、糖化という化学反応によって美味しそうな見た目や風味が生まれるのです。糖化を化学的に説明すると、「物質に含まれているアミノ酸やたんぱく質が糖類と反応して、茶色の物質ができる化学反応」と言うことなのです。食品の糖化は、私たちの食生活を豊かにする調理法として素晴らしい効果をもっています。しかし、体の中で起こる糖化は老化を進める原因になってしまうという皮肉な反応なのです。


体にAGEsができると?

皮膚中のコラーゲンが糖化してAGEsができると、弾力が失われて、肌のハリがなくなり、たるみやすくなります。肌のコラーゲンは新しく入れ替わるのに15年ほどかかると言われています。コラーゲンが糖化してAGEsができると、古いコラーゲンが分解されにくくなって、新しいコラーゲンとの入れ替えが遅くなり、老化が進んでいきます。この変化は見た目の老化に繋がります。糖化はコラーゲンの老化を進めて悪循環をもたらします。体の糖化が老化に関係するかも知れないと考えられるようになったのは1980年代ごろのことです。最近の研究では、AGEsの蓄積が、肌のたるみだけでなく、糖尿病合併症、骨粗鬆症、アルツハイマー病、癌など、人間のさまざまな部位で起きる疾患と密接に関係していることが明らかになっています。近年、糖化によってできるAGEsの影響による体の老化は「糖化ストレス」と呼ばれています。また糖化ストレスを減らす対策は「糖化ケア」と呼ばれています。

体を老化や疾患から守るには、できるだけAGEsをためないようにして糖化ストレスを減らすことです。糖化ケアは見た目の若さを保ち、さまざまな疾患の予防対策として注目されています。


老化の死神と言われるAGEs

糖化はアミノ酸やたんぱく質が糖と反応し、茶色く、固く、変化してしまう現象です。さらに体の糖化を詳しく見ると、食事などから摂取した炭水化物や糖分が消化されて過剰にできた糖と、体のたんぱく質が反応してAGEs(エージーイー)と呼ばれる終末糖化産物ができて変質(劣化)することです。体の主要な組織である内臓、筋肉、皮膚、髪の毛などは、水を除くと主にたんぱく質でできています。体が糖化すると体の機能を維持するのに欠かせない「たんぱく質」が「糖」と結びついて「老化たんぱく質」になってしまい、本来の機能を失います。また、糖化したたんぱく質は機能が低下するだけでなく、新陳代謝されにくくなって体内に長く留まり、さらに老化を進めてしまいます。AGEsはAdvanced Glycation Endproducts略語です。一方、AGEという英単語は「年齢」を意味しています。体内にAGEsが増えると、老化が進む(AGE=年齢、が増える)のです。

つまり、AGEsはたんぱく質本来の機能を低下させるゴミのような物質で、老化を進める死神のような存在なのです。